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 1-1:良い時計が気になるお年頃
 時は2025年……気付けば、私も社会人として中堅といえる年代になってまいりまして、
そうなると良い腕時計というものが欲しくなってきてしまうんですよね

書いていて初っ端から「これってド昭和的な価値観だな」と思ってしまいました……><

しかし、これはしょうがないんです、
だって、何を隠そう(?!)筆者は、近代建築とか、昭和的な喫茶店をこよなく愛している懐古マニアですので、

まじでしょうがないんです(多面的に)


たぶん古き良き企業戦士こと昭和リーマンの生き様を追体験したい欲求に駆られているんだと思います。


 では本題にまいりましょう。
善良な社会人にとって良い時計、という観点だと、以下の共通認識に帰結しますよね?
 @シンプルかつ飽きがこないようなデザイン
 A一生使えそうなほどの耐久性がある(なにかあっても修理できそう)
 B会社に着用して仕事をしていてもイヤミさがない
 Cだけど自分自身の目には上品かつ壮麗な気品を確実に感じられる

たぶん、こういうのを俗に"最高の実用時計"て呼ぶのではないかと思うのです。

なので、最高の実用時計として名の通った時計をですね、
単純に買ってしまえばいいわけですよね??

そんなの簡単ですヨ、グーグルで検索すれば良いんですヨ……

OMEGA SEAMASTER
(58万円)
 SEIKO GRANDSEIKO
(127万円)
ROLEX DATEJUST
(200万円)

えッ…嘘…たっかぁ……????
(ここにROLEXが出てくるほうがおかしいけどさ)



 なんということでしょう…
残念ながら私の財力と完全に乖離しておりました。

ま、まあ…本気で買おうと思ってたわけじゃないしィ……↑?
ただの市場調査というかァ↑??そういうやつだしィ↑???(銀魂的文体)

 こんな感じで事前学習を済ませたところで、私のお財布と相談しつつ探してみることにしました。

1-2:最高の実用時計を手に入れる
 私は天啓を得ます。

なにも新品で買わなくてもいいのではないか、と。

ヤフオクで良い感じの見つければ良いんじゃないか、と。



 腕時計という技術はもう大昔からあるんです。

私が幼少期のころ(2000年代初頭とか)のものだって十分すぎるほど正確でしたもん。

しかも国産メーカーの腕時計を調べてみると、
1950年代ぐらいから飛躍的に精度(時間の狂わなさ)が良くなって、
1970年ごろにはかなり実用的な精度になっていったんですってよ



 いやあ、これもう年式を問わず選びたい放題じゃないですか???

せっかくなんでちょっと古いモデルとかを中心に落札価格見てみますか〜!
昭和的リーマンの生き様を追体験したければ当時物に限るよなあ?!!



ほあっ?!!!

1万円以下とかふつうにバリバリ落札されてますやん!!!安っすう!

やばいなあ、だめだなあ……価値基準が壊れちゃうなあ……


(わりと運勢も必要な気がするけどたしかに安い…)


私はここを主戦場に、物色を開始することにします。(価値基準が壊れた男)



 そして時は流れ1ヶ月……
国産腕時計をじっくり勉強し、知恵を蓄え、

私はとうとうやり遂げました。

現行のオメガとか、グランドセイコーに肉薄するほど素晴らしいものをですね

手に入れてしまいまったのです。(自慢したいのを押し殺した表情で)

ウヒョヒョ♪



 ということでですね、
自慢になってマジで申し訳ないんですが見てってくださいヨ(イキり度MAX)

私の左腕で燦然と輝く、美しい超高級実用時計の腕時計さまの姿をよぉッ!!!


あれれーおかしいぞ、腕に乗らないぞー?

 なんでジャンク部品買ってるねん…(おばかかな?)


どうした?早々にハッピーエンドを期待したのか……?
見てのとおり、物語はまだなにも始まっていないってコトさ……
あいにくだったな……



めでたくイマジナリー最高実用時計を手に入れてしまった私。

え、これ大丈夫?なにしたいのこの人??

…と思ったあなた、その感性は正しいといわざるを得ません。

だってさ…、落札が確定した瞬間になんか失敗した感ハンパなかったですからね……

 1-3:傑作機の欠片
 あまりにヤフオクが楽しすぎるあまり、なぜかジャンク部品を買ってしまう筆者──

買ってしまったものはしょうがありません、
とりあえずまずはですね、ひょんなことから手元に来てしまった、彼の紹介から始めることにしましょう。

【注意】
この先、この機械についてねちっこく調べ尽くしたせいで、だいぶ専門的なワード出てきます!
まあ、なるほどなァ、ぐらいの気持ちで流していただいてOKです><


(この状態で紹介されてもな…)

 彼の名前はセイコーの45系ムーブメント。
ジャンクな見た目に反して、なかなか見どころのあるスペックの持ち主です。

【基本スペック】
 ・キャリバー名称:Cal.4502A
 ・駆動方式:機械式・手巻き
 ・製造メーカー:第二精工舎
          セイコーのグループ企業で、現在のセイコーインスツルの旧称です

 ・搭載機:KS(キングセイコー・1968〜1975年ごろ)
 ・振動数:36000(10振動とも呼ばれます)
       ※先代の機械は振動数18000(5振動)だったので、当社比2倍ってやつです
 ・その他:秒針規正機能、日付の瞬間送り機能
       ※瞬間日送りは先代の機械にはありませんでした



 どうですか??手巻きっていう、時計に電池を入れないかわりに、
毎日ゼンマイを巻き上げてあげないといけないのはアレですけれど、

10振動っていうのは、1秒間に針が10回動くことを意味していて、
いま見てもわりと頭のオカシイ性能してるんですけど、

1960年代にこれ作ったと思うと究極に頭オカシイです(ベタ褒め)



それに加えて、瞬間日送り(午前0時になるとパチンッで日付表示が切り替わる仕組み)とか

「ロ○ックスにできてウチにできないワケがねえッッ!!!」
っていう当時のセイコー技術屋の熱気をバリバリ感じちゃうじゃないですか



スゴいですよ、異様にトガったスペックをしてやがりますよ……45系……



 しかも、

しかもですよ

この45系ムーブメント、
世界の強豪時計メーカーと競い合って優秀な結果を残した偉業を持っています。



【来歴】
 ・1967年 クロノメーター・コンクール出場のために45系を開発
 ・1967年 スイスのニューシャテル天文台クロノメーター・コンクール出場 最高4位
 ・1968年 スイスのジュネーブ天文台クロノメーター・コンクール出場 最高4位
  (1〜3位はスイス勢ながら、駆動方式の違う時計だったので、機械式としては45系が1位)
 ・同年 市販機用に改良され、
KS(キングセイコー)GS(グランドセイコー)として一般販売
 ※ちなみに1969年以降 クロノメーターコンクールは開催されず



 ここに登場するクロノメーターコンクールっていうのは、
要するに時計の精度の世界ナンバー1を決める頂上決戦みたいなものでして、
1960年代初めまでは時計業界の頂点を極めるスイス勢のお祭りとなっていたところに
日本勢が殴り込みをかけて、1968年にこの45系ムーブメントが機械式時計のなかでは1位を取ったという。



おいおい、レジェンドすぎやしませんか……?
しかも1968年を最後にコンクールの開催が終わってしまったってことは、
最後のクロノメーターコンクールの王者として歴史に名を残しているのです。



 たどりついたぞ…!最高の実用時計とはまさにこれのことなんだ!!!

スペックは良いし、高精度を証明する歴史もあるし!

私は決めた!!!この45系ムーブメントにすべてを賭けるぞ!!!!



ていうのが、まあその……手元にジャンク部品がある理由なんですよね。。。

 1-4:45系キングセイコー調査リポート
 前段で大いに紹介した、45系ムーブメント。

このモンスターエンジンを積んだ腕時計がセイコーのKS(キングセイコー)GS(グランドセイコー)でして、

探してみるとどうやらキングセイコーは3万円あたりから選べるんですが、
グランドセイコーは中古でも20万円ぐらいを覚悟しないといけないです。



なるほど!OK!
私は財力がアレなので圧倒的に安いキングセイコーに狙いを定めた───!!!





 というところまでは良いんですが、
で、なんでキングセイコーの部品のジャンクを買ったのかっていうと、

ふつうに筆者が迷走してたっていうのもあるんですが、しっっっかりとしたプランもあるからでもございます!
どうか安心して!



 私がまさに買わんとしていた45系のキングセイコーの代表的なモデルって大まかに2つあって、
超シンプルな見た目の通常版と、12時位置に英文の書いてあるスーペリアクロノメーター版があるのです。

 
通常版 スーペリアクロノメーター版


 通常版はわかる……でもスーペリアクロノメーター版ってなによ???

てお思いのかたも多いかと思います。



 どちらのバージョンでも同じ45系の怪物機械が載っているんですが、

前者はふつうに出荷したバージョンで、

後者は、事前に日本クロノメーター検定協会っていう組織に、機械を提出して、
何日にもわたって時計の精度を計測して、「この時計の精度、とっても良いですヨ!」て
お墨付きをもらってから販売されたバージョンになります。

だからこそ12時位置にある
「SUPERIOR CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED(優秀!クロノメーター公式認定!)」の称号が輝くんですね!

どうですか!伝わりますかこのアツさ!

最高の実用時計って感じ、バリバリしてきませんか?!!



読めないけど英文の多さ = スゴさってコト

 でも1つ困ったことがあります。

それは、全体的な見た目としては通常版のほうが好きだってことです。。。
針の先端が三角形になってて、インデックス(文字盤にくっついてる石みたいなの)が太いのが良いのじゃ……

意を決して2つ買うの手もあるけど、なんかそれじゃない感!!!



考えていると、天啓というか、知ってはイケナイものを知ってしまいました。


ワールド・ムック「国産時計博物館」より

 えっ!うそ?!

あるの?!


通常版の見た目なのに文字盤に「スーペリアクロノメーター」って書いてるやつがァ?!!



ガチ惚れしました



 でもこんなのヤフオクで流れてるの見たことないっすよ……

僭越ながら私、本気で1ヶ月ぐらい張り付いてたんだぜ……?



 通常ならあきらめるか、ヤフオクに流れてくるのをウォッチするか迫られる究極の場面……

筆者は頭がすこぶる悪いのでこう思いました。



これ、文字盤を書き換えたら作れるんじゃないの???と。

 1-5:45系キングセイコーを作ろう!!
 あらぬ方向に走り始めた筆者。



実用時計を買いたいだけだった気持ちが、文字盤の書き換えにまで波及してしまう男。



これはどう考えてもセイコーが悪いんです。

なんというか、アレですよ、
片田舎の高校の弱小野球部が努力と鍛錬と研鑽を重ねて強豪校を倒して甲子園優勝する
…みたいなド王道スポ根マンガみたいなストーリーを持っているセイコーがすべて悪い。


 私の気持ちはいま、1968年当時のセイコー社員の気持ちとシンクロしているのです(狂人)

45系のキングセイコー(通常版)のシンプルながら美しさを湛えた姿を見てほしい!
だけど45系自体の素晴らしさも誇りたい!!
長年こだわってきたクロノメーター、その公式認定の文字を文字盤に入れたい!!!



 文字盤書き換えの調査を始める筆者。
しかし、文字盤の書き換えだけでは、例の通常版+3段英文付きのキングセイコーにはならない事実が判明しました。

それはなにか…!まさかの45系ムーブメントが通常版とスーペリアクロノメーター版で違うというのです!



……ど、どゆこと???(同じ45系ムーブメントぢゃないの??)

実は、通常版もスーペリアクロノメーター版も、まったく同じ機械を載せているんですが、
1か所だけ、目に見える部分が異なるようでした。

それは、

シリアルナンバー(個体番号)が入っているか否かだ!!!



個体番号がある = クロノメーターと覚えて良いと思う


 もうおわかりのかたもいらっしゃるでしょう。
私が探していたのはクロノメーター仕様の45系ムーブメントだったのです。

だからこそジャンク品でも厭わずに探していたのです!



 これで……作れる見通しが立ったんじゃないですか、
キングセイコー・スーペリア・クロノメーターをよお…!(名前長すぎ)



 あまりの感動に、私の脳裏にいま、壮大すぎるストーリーがまざまざと浮かび上がってきます。

いままで通常品として歩んできたキングセイコーと、
クロノメーター機でありながらジャンク部品になってしまった元キングセイコーが力を合わせて、
再びクロノメーター機としての威厳と誇りを取り戻す。
そんなあまりに壮大すぎるストーリー……



最高のドラマを持った最高の実用時計、
キングセイコー・スーペリア・クロノメーター」、作っていきましょうよ。

当時のすべてのセイコー技術者たちの熱気をこの腕に乗せて、
存分に輝かせてみましょうよ。



本章へ続く……
初稿:2025/11/30

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